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東京家庭裁判所 昭和57年(少ロ)3号 決定 1982年8月05日

被疑者 I・R

右の者に対する窃盗被疑事件について、東京家庭裁判所裁判官が少年法四五条四号、少年審判規則二四条の二によりみなし勾留の効果を発生させた措置に対し、同年八月二日弁護人から適法な準抗告の申立てがあつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立てを棄却する。

理由

一  本件準抗告申立ての趣旨及び理由は、弁護人作成の準抗告申立書及び理由補充書(二通)記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二  そこで、一件記録に基づいて検討するに、被疑者が検察官送致決定掲記の窃盗の各罪を犯したと疑うに足りる証拠が優に存することは明らかであるところ、被疑者はそれらの罪の存否又はこれを犯すに至つた経緯等について共犯とされる者とくい違う供述をし、また、被疑者の捜査段階における供述にも一部変せんがみられ、さらに、取調べに当たつた捜査官に対して不隠当な態度があつた形跡もうかがえること等からすれば、被疑者が関係者等に働き掛ける等罪証の隠滅をすると疑うに足りる相当の理由のあることが認められる。更に、右のような事情に加えて、本件の各罪の罪質及び被疑者が保護観察中でありながら落ち着いた生活を送つてきたとはいい難いこと、保護者の被疑者に対する指導監督の状況等の事情に照らせば、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当の理由も存在するといわざるを得ない。そして、一件記録を精査するも、被疑者について少年法四五条四号によるみなし勾留の措置をとることを不相当又は不必要とすべき事情は、一切これを認めることができない。

右のような刑訴法六〇条の勾留の要件が具備している限りは、少年法四五条四号によるみなし勾留の措置は当然これを取ることができるのであつて、この勾留の要件が具備していないこと以外に、一定の場合に観護措置を取り消してみなし勾留の効果を発生させないことが必要的になるという法律上の要請はない。弁護人は、一般的に成人に対する起訴前の勾留による身柄拘束期間に比べて少年の起訴前の勾留及び観護措置による身柄拘束期間が不均衡に長期にわたると思料される場合には、憲法一四条にいう平等原則、あるいは、少年に対する起訴前の勾留期間が長期にわたることを防止しようという少年法四五条四号ただし書きの趣旨に照らして、たとえ、刑訴法六〇条の勾留の要件が具備していても、少年法四五条四号の適用が排除されみなし勾留の措置をとることができない旨主張するが、これは独自の見解であつて、採用することができない。

なお、本件のみなし勾留の措置がとられた後に生じた事情ではあるが、弁護人は、被疑者を東京少年鑑別所から代用監獄である○○署に移監するに当たり本来得るべきであつた裁判官の同意がなかつたことをもつて、本件みなし勾留自体が違法になる旨を主張するが、そもそも裁判官がみなし勾留の措置をとるに当たつては格別の令状を発付してそこに被疑者の勾留すべき場所を特定するわけではないから、勾留すべき場所を変更することを承認することの実質を有する移監に対する同意ということが問題にならないと解する余地もあり得ると思われるが、たとえ、移監について裁判所あるいは裁判官の同意を要すると考えるにしても、本件の場合、移監について裁判所あるいは裁判官の同意を得なかつた手続的かしが本件のみなし勾留自体を違法にするほどに重大なものとは倒底考えられず、結局、弁護人のこの点に関する主張も採用できない。

その他、弁護人の主張にかんがみ一件記録を精査しても、被疑者を本件のみなし勾留により身柄拘束することが許されず、違法不当だとすべき事情は、一切これを認めることができない。

三  よつて、本件のみなし勾留の効果を発生させた東京家庭裁判所裁判官の措置は正当であり、本件準抗告の申立ては理由がないから、刑訴法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 豊田健 裁判官 野崎惟子 向井千杉)

〔参考一〕 準抗告申立書

申請の趣旨

東京家庭裁判所裁判官○△○△のなした観護措置を取消さない処分はこれを取消す

被疑者に対し昭和五七年七月五日なされた観護措置を取消す

申請の理由(編略)

〔参考二〕 東京地 昭五七(む)七〇八号 昭五七・七・三〇決定(本件準抗告申立て前に東京地方裁判所になされた準抗告申立てに対する決定)

少年 I・R(昭和三九年六月二一日生)

右の者に対する窃盗保護事件について、昭和五七年七月二九日東京家庭裁判所裁判官のした勾留の裁判(同月五日に同家庭裁判所裁判官のした観護措置決定で少年法四五条四号により勾留とみなされるもの)に対し、同月三〇日弁護人○○○○、同○○○△及び同○○△△から準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一 本件準抗告の申立の要旨は、「東京家庭裁判所裁判官が昭和五七年七月二九日にした少年に対する勾留の裁判(同月五日に同家庭裁判所裁判官のした観護措置決定で少年法四五条四号により勾留とみなされるもの)を取消す。」との趣旨の裁判を求め、その理由として本件勾留は憲法一四条に違反するものであり、かつ、右勾留については刑事訴訟法六〇条一項二、三号の各要件がいずれも存在しないというのである。

二 そこで判断すると、本件申立は、東京家庭裁判所裁判官のした裁判を対象とするものであるから、刑事訴訟法四二九条一項により、同裁判所に対して申立てるべきであり、当裁判所に対する申立は不適法である。

よつて同法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田尾勇 裁判官 中山隆夫 毛利晴光)

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